ある騎士の呟き

 わたくし、トリオン様のお部屋の見張りを任されております、Perfaumandと申します。以後お見知りおきを。
 小春日和と申しますか、この昼の一時は気候も良く立ち仕事の私も楽しく過ごすことができます。
 さて、実を申しますと今日はなにやらトリオン様の様子がおかしいのでございます。昨日何があったのかは存じませぬが、大層大きなお声で宰相を追い出されておりました。今朝にお部屋を後にされた際も、何時もとはなにやら表情が違われました。珍しく、迷いと不安が混じっておられるような――勘違いでしたらよいのですが。
 おや、トリオン様が戻られました。小難しい顔をされています。相当考え込まれてるようで、私に目もくれずお部屋へ入られました。私めがこのような事を言うのはいけないことなのでしょうが……悩まれているトリオン様はお似合いにならないと思うのです。猪突猛――いえ、ただ真っ直ぐに進まれているのが一番トリオン様らしいと思います。
 さて、お部屋でなにやら静かにされていたトリオン様ですが、程なくして再び姿をお見せになりました。そしてそのまま正面のピエージェ様のお部屋へ向かわれます。トリオン様が何を申されたかは分かりませんが、向こうの見張りの女騎士が慌てているようです。制止も聞かず、しかし荒ぶるわけでもなく、トリオン様はお部屋に入っていかれました。
 女騎士は引き下がった後、不安げにこちらに視線をよこしました。私としてもどうしようもなく小さく頭を振りかえしましたが、苦笑を浮かべる事によって彼女も共に苦笑いをしてくれたようです。再び、私達は業務に戻るのでした。
 随分長い間、トリオン様はピエージェ様のお部屋から出てこられませんでした。ただ幸いなのが、特に目立った大声も聞こえないということです。派手な喧嘩をされているわけではないようなので、私達も不安ながら何処か安心して待っていることができます。
 やっとトリオン様が扉から姿をお見せになりました。まだ小難しい顔はされていますが、むしろ私達は悪化しなかった事に驚きと戸惑いを隠せないでいます。既に食事時というのもあり、トリオン様は再びお出かけになりました。
 お食事から戻られたトリオン様はなにやら随分何時もの表情に戻っておりました。何かがあったわけでは無いと私は予想しますが、落ち着きを取り戻したのは間違いないでしょう。ほんの些細な心配から私もこれで開放されます。
 星が煌めき中庭の空から私を照らす頃、トリオン様が再びお部屋から出られました。しかし何時もの白く輝く鎧をお召しになっておられません。驚きながらも尋ねると、どうやらローテ様の墓石に参られると。暗い中に危険だとは思いましたが、護衛も連れて行く予定だという言葉に私はそれ以上何も言う事をしませんでした。何よりトリオン様は武芸に秀でた方です。そのような方に不安と言うことは侮っていると言う様なものだろうと思います。
 そして行きがけに、今日はもう見張りをあがって良いと仰られました。まだ定刻ではないので迷いもありましたが、特に逆らう理由もありませんので私は大人しく与えられている部屋へ戻りました。気になるところもありますが、私めが口を挟むことではないのかもしれません。

 次の日、トリオン様は何時もどおりに過ごされていました。心持ち心にゆとりがあるように見受けられもしますが、それは――私では計り知れないこと、であります。


――了――


2004.11.16






















らるさん、ありがとうございました!!


らるさんから素敵小説を頂いてしまいました!
「要 深読み」 な爽やか小説。小気味が良くって愛なのです!  もちろん深読みなどしなくても、トリオンの兄貴の挙動不審さが笑いを誘ってああもうらるさん大好きです。

ちなみにこの小説。FF11の某クエストの一部始終を知ることで、 いきなり萌え萌え小説に早代わりする(!)という超豪華特典付きだったりします。 深読みは本当に奥が深いです。思わず鼻血を噴いてしまいました。 らるさんの粋な心意気に感謝なのです。本当にありがとうございました!




らるさんの素敵小説サイト

軌跡の鎖



 メニュー